2015年4月15日水曜日

DAWソフトによる音の違い

【DAWソフトで音は違うのか?】

コンピュータで音楽制作をやる場合「DAWソフト」を使う必要があります

DAWとは「Digital Audio Workstation」の略称で、一般的にDAWソフトとはオーディオやMIDIなどを録音・操作するアプリケーションのことを指します

メジャーどころはPro Tools、Cubase、Logicあたりでしょうか

よくソフトによって音が違うと言われますが、それを疑う人もいると思います

そこでちょっとした実験をしてみました


【実験】

Pro Tools 10でミックスダウンした同一のデータ(WAV、24bit/48KHz)を、Pro Toos 10とLogic Pro Xで同じ設定にしてオーディオCD向けのマスタリングを施すとどうなるか

作業方法は以下の通りです


① セッションスタートの位置にデータをインポート、フェーダーは0db固定
② プラグインはWAVESのREQ6、C4、L2の順でインサートし、どちらも設定は全く同じにする(Pro Tools側で設定した数値をLogicに反映させています)
③ バウンス時の条件は、WAVで16bit/44.1KHzにエンコード、オフラインバウンス未使用(リアルタイムで書き出し)、バッファサイズは1024、自動遅延補正は最大値
④ 書き出した両ファイルをPro Tools 10のセッションスタート位置に取り込み、フェーダーは0db固定にして聴感上で違いを確認
⑤ 両方に付属プラグインのTrimをインサートし(両方に立ち上げるのはなるべく同じ条件にするため)、同時に再生した状態でどちらか一方の位相を反転させる
⑥ ⑤の状態でアナライザーを使い周波数解析











RTASとAUで形式の違うプラグインを使っているから単純にDAWの再生音のみの音質比較にはなっていませんが、プラグインを使わない人はそういないと思うので実践形式でやりました

テスト音源はドラム、ベース、ギター、ボーカルのオーソドックスなロックバンドの音源です

さて、結果はどうなったと思いますか?


★聴感上
・Pro Toolsの方が高域成分が強く聴こえた(これは僕の主観)
・逆相にしたら高域成分(スネアのスナッピー、キックのアタック音、シンバル、ギターのシャリシャリ感など)が少し残っており、他の帯域は全く聴こえない
・ここは手順にないけど、試しにPro Tools側にEQを立ち上げ、残っている成分の帯域を0.1~0.2dbカットしたらほぼ音が消えた


★アナライザーの解析結果
・4KHzあたりに-78db前後の成分があり、4KHz以下は全く反応なし
・7KHzより上は-73db付近まで成分が残り、20KHz手前で-60db超えのピーク成分が





【実験結果からわかること】

この実験の結果、LogicよりPro Toolsの方が高域が強いということが判明しました

僕の聴感上の結果はともかく、逆相にした状態でアナライザーのメーターが振れたということは完全に打ち消し合っていないことになります

これはLogicがハイ落ちしているのか、それともPro Toolsにハイが足されているのか…残念ながらこの実験では証明できません

プログラムのことがわかるレベルの人じゃないと証明するのは難しいかもしれないです

そして、結果が違うことは証明されたけど優劣をつける話ではないですね

あえてつけるとしたら個人の主観(好み)になってしまいます

これを読んだ方はどう思うでしょうか



【原因は何なのだろう】

音が違うということは必ず何かしらの原因があります

よく耳にする主な原因(推測)はこの3つじゃないでしょうか


・レンダリングエンジンやエンコーダの性能差
・プラグインスロットやミキサーなど内部演算の精度
・プラグイン形式の違い






僕も概ね同意見ですね

先ほどは触れませんでしたが、音質だけでなくバウンス後のファイルの長さも違って、なぜかPro Toolsの方が3サンプル長いという結果になりました





コンピュータの演算はけっこういい加減だということがわかる

Pro Tools 10は32bitアプリ、Logic Pro Xは64bitアプリなので、こういう要素も絡んでいるでしょう

同じソフトでもバージョンによって音が違うというのは、内部演算の精度が変わっているからだと思います



【原因をより掘り下げてみる】

そして非常に細かいですが、ここまで来たらバウンス時のコンピュータにかかっている負荷も関係あるのではないかという気もしていて

バッファサイズやCPU・メモリの使用率などが絡んでくるのかもしれません









仮にこれらが本当であれば、同一ソフト内・同一セッティングでリソースの消費状況による音の違いが再生毎に生じることも考え得るわけです

これらを検証している人っているんですかね?

やっている人がいたらぜひ結果を見てみたいものです

それに意味があるかどうかは置いといて、一つの事実を証明することは大事だと考えます

どうしても気になる人もいるでしょうから

ものすごく時間がかかるだろうけど、1パターンで10回ずつ書き出して逆相実験というのもやってみないといけないですね



【最後に言っておきたいこと】

こう言ったら本末転倒になってしまうけど、この微々たる差が気になる人は気にすればいいし、気にならない人は気にしなければいいです

メディアがテープからCDに変わったぐらいの大きな変化ではないので、違いがわからない人も多いと思う

僕が今回検証した理由は、現在互換性の問題を解決するために複数のソフトを使い分けており、一緒に制作するミュージシャンから「どう違うの?」と聞かれた時、主観・論理の両面から明確に答えられるようにしたかったからです

実はそんなに気にしていませんw

音質に懐疑的な意見が出ているPro Toolsを使っているのも、業界標準で互換性も高いし、何より使い慣れてしまっているからです

ツール選びで一番大事なことは、いかに自分の目的に合っているかではないでしょうか

音質にこだわりたいなら音質重視のソフトを選べばいいし、それよりも編集機能やMIDIの使いやすさが大事だという人はそういう作業に向いているソフトを選べばいいと思う

こればかりは使ってみないとわかりませんね

勘違いしたらいけないのですが、いいミックスに必要なのはツールでなく感性と技術です

参照記事
「レコーディングって何するの?」

ハードでもソフトでも楽器でも何でもそうですが、基本的なことができないとツールのポテンシャルは存分に発揮できません

音質改善には基本的な技術や感性を身に付けることが最も重要であることを忘れてはいけないのです



今回は音源サンプルを付けていませんが、Cubase Pro 8を導入したらサンプル付きで主要3ソフトの違いを公開しないといかんな

以上、DAWソフトには微妙な音の違いがあるというお話でした

2015年4月3日金曜日

センスはコピーできないんです!

ブログ開設にあたり、何人かのミュージシャン友達にどんな内容を書いて欲しいかを聞いてみました

一番多かったのが基本の音作りに関することでしたね

なんとなくEQやコンプをかけており、果たしてそれでいいのか自信がないという方が多いのが現実のようです

僕もまだまだ勉強中ですが、そういう悩みを抱えている方のヒントになるようなコンテンツを作っていけたらなと思っています



今はマスタリング手法に関する記事を書いており、プラグインの設定画面や音の変化を確認できるオーディオファイルも準備中です

セッティングは絶対見せないという人もいると思いますが(ミキサーをシートで覆い隠すエンジニアもいたとか)、個人的には全く問題ありません

その都度音の処理方法は変わるので、僕の開示するセッティングを他で真似してもあまり有効だとは言えませんから

大事なのは「なぜそこでその技を使ったのか、どれぐらいの加減で処理すればいいのか」を判断できるセンスです

設定はコピーできてもセンスはコピーできませんよね

自分の耳で判断できる感覚を養い、技の引き出しを増やすことが大事なのではないでしょうか



記事の技術解説は理屈っぽくなる時もあると思いますが、なるべく難しくならないよう図解やサンプルを積極的に取り入れた内容にするつもりです

そんな感じで、今後ともよろしくお願いします!

2015年4月1日水曜日

マスタリングって何するの?

【作業目的】
一般的に言うマスタリングとは、正確には「プリマスタリング」の工程を指します(世の便宜上、以後このブログではマスタリングと呼ぶ)

マスタリングは、ミックスダウンした2ミックス全体のサウンドを調整する工程になります

イメージしづらい方はこう考えて下さい

例えば10曲入りのアルバムを作る場合、10曲それぞれで素材は異なり、当然ミックスも違うので全体の音量レベルや音の質感は揃っていません

同じCDに入れるのに統一感がないと変なので、マスタリングはそれらを均一化するために行います(曲間の長さの調整も含む)

いわば仕上げの作業であり、料理で例えると出来上がった料理を皿に盛り付け、見た目を整える作業と言えばわかりやすいと思います


【突然ですが質問】
ここで1つ、読んで下さっている方に質問

調理が終わった後に派手な味付けや食材の加工をしますか?

しませんよね

する必要があれば調理が失敗だったということになります

これは音楽も同じです

リスナーはマスタリング後の音しか聴けないので比較しようがありませんが、マスタリングではミックスダウンの音からガラッと印象が変わることはありません

ガラッと変える必要があるならミックスが失敗だったということです

可能であればミックスをやり直しましょう


【特殊な作業なんです】
レコーディングは素材調達、ミックスは調理、マスタリングは盛り付け

それぞれの作業には全く違った目的があり、それを他の工程と混同すべきではありません

プロの世界ではレコーディングとミックスを同じエンジニアが担当する場合はありますが、マスタリングまで同じエンジニアがやることはほぼありません

メジャー流通のCDクレジットを見てみたら、マスタリングエンジニアは違う人の名前が書いてあるはず

マスタリングは非常に特殊な作業で、他の工程とは全く違った感性や技術が必要なのです

インディーズの制作では予算の都合で全部同じエンジニアがやることが多いかもしれませんが…


【最後に】
話が横道にそれましたが、マスタリングはあくまでも微調整であることを念頭に置きましょう

余談ですが、鬼門である「音圧戦争」に関する話題は別に記事を書きます

ざっと音楽制作の工程を書いてみましたが、少しはイメージが掴めたでしょうか

我々エンジニアはこういうことをやっているのです



関連記事
『レコーディングって何するの?』
『ミックスって何するの?』

ミックスって何するの?

【作業目的】
ミックスでやる作業は色々あります

録った素材そのままでは音色や空気感、レベルバランスのバラつきがあるので、そういうことを調整して音楽的に聴きやすい状態にするのが作業目的です

3工程の中で最も音楽的な作業であり、エンジニアの色が出やすい工程ですね

【作業手順】
ここでは僕の手順を例にざっくり説明します

まずはパン(音の左右)を振り、フェーダーで大まかなレベルバランスを設定する

その後、必要な素材にEQ・コンプをかけて音の基礎を作る

基礎の音作りが終わったら、リバーブ・ディレイなどで空間を作り、場合によってはモジュレーションやフィルターなどで特殊効果を付けたりもする

音の方向性が決まったらオートメーションでレベルバランスを細かく調整し、それに合わせてエフェクトの具合も微調整

OKだったらミックスダウン(トラックダウンとも言う)

ミックスダウンとは、完成したミックスをステレオ2chにまとめて録音し直す(現代的に言うと新たにファイルを生成する)ことです

なぜわざわざそんなことをするの?と思う方もいるかもしれませんが、理由は次のマスタリングで説明します

そして非常に重要なこと

音作りはミックスダウンの時点で終わらせる

マスタリングに続きます

『マスタリングって何するの?』



関連記事
『レコーディングって何するの?』

レコーディングって何するの?

【音楽制作の一連の流れ】
音楽制作は大きく分けてレコーディング、ミックス、マスタリングの3工程があります

ご存じない方のために1つ1つ解説していきます

【作業目的】
レコーディングは何もない状態から録音をする作業で、作品の素材を収録する最も重要な工程です

ここでいい素材が録れていないと作品のクオリティは上がりません!

ミックス以降の作業でなんとかなる場合もありますが、ほとんどの場合上手くいかないでしょう

ちょっと例えが悪いですが、腐った肉はどんなに腕の立つ料理人でも美味しい料理にはできないのと同じです

いいミックスはいい素材とエンジニアの腕があってこそ

【具体的な作業】
プロの制作現場では通常、本テイクの前に「プリプロ(プリプロダクションの略)」と呼ばれる準備的なレコーディングを行います

一度曲を録音して全体像を把握し、そこからアレンジや音作りの方向性などを決めるためのレコーディングです

曲の進行ガイドとしての役割もあります

プリプロのテイクがそのままOKになる場合もあるので、本テイクを想定して音を作るのが鉄則

本テイク録りでは全部録り直す場合もあるし、必要な音を録り直したり足したり…その時々で状況は変わります

プリプロで方向性が決まったらいよいよ本テイク録り

ベーシック録音(一般的にはドラムやベースなどの基礎的な素材録り)からオーバーダビングで重ねたり、「せーの!」で一発録りをしたり、これまた方法は時と場合によります

アマチュアバンドの場合は特に、少なくともドラムとベースはアイコンタクトを取りながら一緒に演奏した方がいい結果を生むはず

オーディオ、MIDIなど、全ての素材が揃ったらミックスに入ります(編集については割愛)

『ミックスって何するの?』



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『マスタリングって何するの?』