2015年10月2日金曜日

ドラムのトリガーについて・後半(実践編)

ドラムのトリガーについて・前半(基礎知識編)

前半ではトリガーについての基礎知識を書きましたが、後半では実践的なことに触れていきます。

TRIGGER2Cubase Pro 8の両方で解説を。

Cubaseはバージョン6あたりからからヒットポイントを検出する機能が付いているはずですが、バージョン8とは表示や操作方法が異なるかもしれません。

システム毎に使い方は異なりますが、どれも同じような概念だと思うのでご参考までに。



■TRIGGER2

トリガーしたいトラックにTRIGGER2をインサート。

起動画面が表示されたら左側にある「Browser」をクリックし、サンプル名を画面下にある任意のパッドのような空白部分にドラッグ。





サンプル音をチェックしたい場合は「Audition」をONにしてからクリックするとサンプル音が鳴ります。





次に、画面左側で「Browser」から「Triggering」に切り替えてサンプル音の詳細を設定。





ここでもミュートがかかっていないトラックのパッドをクリックすると音が鳴ります。

プラグインへの入力レベルを感知するため、元音のインプットレベルで画面の波形が適切な大きさになるまで上げる必要があります。





波形が小さすぎると検出の精度も下がるので、インプットを上げすぎず、波形がなるべく大きくなるように設定するという感覚。

インプットレベルが調整できたら、DETAILのパラメーターで閾値を適切に設定。





画面の横線2本の位置が縦に変化し、ヒットポイントが検出された部分は縦線が入る&アタックポイントがオレンジ色になるので視覚的にもわかりやすいです。






SENSITIVITYというパラメーターは検出精度を調整する値で、50ぐらいが基本、90以上だとゴーストノートの検出も可能とマニュアルには書いてありますが、正確にニュアンスまでコピーするのはかなり難しいですね…。





「View Curves」の細かいパラメーターをいじると、さらに細かい条件でトリガーすることができます。






アウトプットセクションで元音とサンプル音のバランスと最終的なアウトプットレベルが決められ、その後は次のプラグインスロット…という流れで音が出ます。





TRIGGER2の後に直接プラグインをかけるのもよし、一度オーディオデータとして書き出して別トラックとして扱うのもよし。

ちなみに、MIDI CAPTUREモードでMIDIデータの検出が可能です。





ホストアプリケーションを再生し、検出が終わったら「DRAG ON TRACK」ボタンをホストアプリケーションの新規MIDIトラックにドラッグするとデータが読み込まれるみたいです。

次で説明しますが、僕はCubaseユーザーなのでこの機能は使わないでしょうw



■Cubase

トリガーしたい音の波形をダブルクリックし、サンプルエディター画面(波形が拡大されて出てくる)を表示。

同画面の左側に「ヒットポイント」という部分があるのでクリックし、ヒットポイントの編集機能をオンに設定。





スレッショルドレベルを下げていくと、波形内に縦線がヒットポイントとして現れます。

Cubaseは再生せずにヒットポイントがわかるので大変便利なんですよ。





ざっと波形をチェックして、検出漏れがある場合は手動でポイントを個別追加し(公式サイトの説明)、検出ポイントがOKであれば「MIDIノートを作成」をクリック。

「ダイナミックベロシティー」で書き出すとオーディオの強弱がMIDIにも反映され、「設定したベロシティーに変更」で書き出すと任意の条件で書き出せます。

CubaseもTRIGGER2と同じで、検出精度を上げるためにトリガーするオーディオトラックのレベルを適正に設定する必要があるのですが、コピートラックを作ってノーマライズし、そのデータからヒットポイントを検出するというやり方が最適だと思います。

書き出したMIDIデータだけでは音が鳴らないので、付属のサンプラーやBFDなどのドラム音源で任意の音をアサイン。

MIDIだとサンプルの選択肢が増えるし、データの受渡しも簡単ですよね。



■小技

TRIGGER2は専用のエディターを使えば、同プラグインで読み込めるサンプルデータを自分で作れます。

個人的な構想ですが、ドラムを録り終わった後にスネアだけ、バスドラムだけ…という具合に1パーツずつ何発かドラマーに叩いてもらい、その中で一番良かった音をトリガーのサンプルとして使おうかなと思っています。

DAWでそれをやるならサンプラーで代用できますね。

今度実践でやってみるつもりで、そのサンプルが公開できるといいんですけどね。

そのまま使うと曲調に合わない場合が多いので、違うサンプルを同時発音したり、同じトラックを作ってそれぞれに別な処理をして太くする方法もあるのですが、それは今度記事にすることにします。



■まとめ

システムに関係なく、トリガーはインプットレベルと検出の閾値を適正に設定し、曲に応じてどれぐらいの強弱を付けるのか(または一定にするのか)、原音とサンプルをどれぐらいの割合でミックスするのか、この2点がポイントになると思います。

前編で例に挙げたChris Loard-Alge氏のようなパツパツの音にするなら、100%サンプル音でベロシティーは一定にするといいです。

サンプル音源としてはTRIGGER2以外にも色々選択肢があり、それぞれで得意ジャンルが違うはず。

システム毎にデモ音源が公開されていると思うので、ぜひそれを聴いて自分に合ったシステムを探してみてください。

レコーディングに関してスポットを当てて書きましたが、専用の機材を揃えればトリガーはPAでも可能です。

生音をエディットすることに対して賛否両論あるかと思いますが、個人的にはそういう音作りが必要な場合もあり、音作りの幅が広がる可能性を考えると特に抵抗感はありません。

ただ、前半でも書きましたが、トリガーありきで臨むのはあまり良くないので、使いどころはしっかり見極めましょう。

僕の個人的な手法を書きましたが、もっといい方法があるはずなので勉強してみようと思います。

ドラムのトリガーについて・前半(基礎知識編)

SLATE DIGITAL TRIGGER2を導入しました。






その名の通り、トリガーと呼ばれるテクニックを駆使するためのプラグインです。

トリガーは他にも様々なプラグインが出ていますが、TRIGGER2が自分の趣向にマッチしたのでこれを選びました。

ドラムで使うことが多いテクニックなので、そこにスポットを当てて解説していきます。



■トリガーとは何ぞや

まず、トリガーとはどういうテクニックなのか。

ざっくり言うと、生音をそれと同じタイミングであらかじめ録音されたサンプル音に差し替える技術です。

製品名にもなっていますが、英語で表記すると「trigger」、つまり引き金を引くという意味で、その引き金に該当するのが生のアタック音。

バスドラムを例にすると、ペダルを踏んでビーターがヘッドに当たった瞬間をアタックとして検出し、そのタイミングでアサインした音を鳴らすという具合。

録音された音にプラグインをかけて検出&発音する方法と、ドラムにアタックを検出するマイクのような機材を取り付けて発音する方法があります。







ライブで使う人もチラホラいますね。

電子ドラムもトリガーの1つで、パッドを叩くことでレベルを検出&発音するシステムです。



■なぜトリガーが必要なのか①

そもそも、そんな面倒なことをして何の意味があるのかわからないという方もいると思います。

実は生音のドラムレコーディングにおいては特に意味があるんです。

マルチマイク(ここではそれぞれのパーツにマイクを立てるという意味)でドラムを録音したことがある方ならわかると思いますが、どのマイクにも必ず他の音が被りますよね。

特に顕著なのがスネアで、バスドラムの音やシンバルの音がけっこうな音量レベルで被っているはず。

スネアの音をもっとヌケさせたければEQで8KHz以上を上げる、音量レベルをなるべく均一に揃えたければコンプでレベルが大きい部分を潰して小さい部分を持ち上げる、などの処理をするのが一般的でしょうか。

ここで肝心なのは、スネアのマイクに被った他の音にもEQやコンプがかかるということです。

ただでさえ大きく被っているバスドラムやシンバルが更に大きなレベルで出力されるので、位相や定位にも影響して非常にミックスしづらい。

ゲートで切るという手段もありますが、ある程度一定の音量で叩く技術のあるドラマーでなければ適切な効果を得るのが非常に難しいんです。

そこでトリガーの出番というわけ。

サンプル音のスネアには他の音が被っていないので、トリガーすることで他の音に影響を与えず、一音一音がクリアなミックスが可能になります。



■なぜトリガーが必要なのか②

トリガーを使うのにはもう一つ意味があります。

それでしかできない音作りが可能になること。

当然だけど、生のドラム録りはMIDIと違って他の音色に変更することができません。

後で「違うキットやチューニングにしておけばよかった…。」ということも起こり得ます。

最近のトリガーのプラグインに入っているサンプル音は、プロのドラマー、チューナー、エンジニアが音質にこだわって録音されたものが多い。

ドラムのチューニングは本当に難しく、リハスタなどのキットで録音する場合はこのクオリティに近付くのは困難です。

プロの作った音が使えるのは非常に大きなメリットだと思います。



■トリガーされた作品を聴きたい!

どんな作品でトリガーが使われているのか。

世界一有名なエンジニアの一人、Chris Lord-Alge氏のミックスを聴けばよくわかりますよ(他にもたくさんいるけど、個人的好みで)。

2000年以降は特に、同氏のミックスでトリガーされていない音源はないんじゃないかと思います。

代表作はグラミー賞を獲ったGREEN DAYの「American Idiot」ですかね。

典型的なトリガーサウンドで、非常にわかりやすい。

他にもアメリカのポップスはトリガーされた作品が多いので、そこを気にして聴いてみるのも面白いと思います。



■ただし、乱用は禁物!

ここまで書くとメリットしかないのでは?と思われるかもしれませんが、個人的に一番注意しておきたいことがあります。

それありきで作品を作らない。

これすごく重要。

その作品やプロジェクトに対して本当に必要かどうかという基準で使う必要があると思っていて。

トリガーを使うデメリットとして、ドラマーの叩いたニュアンス通りではなくなることが挙げられます。

前述したGREEN DAYみたいな音楽には非常にマッチしているので、レベルを一定に揃える音作りもありでしょう。

しかし、これがニュアンス重視の曲だったとしたら。

ある程度の強弱が反映されるとはいえ、所詮MIDIの127段階で表現されるベロシティーにすぎません。

それで上手くいく場合もあるとは思いますが、この場合は特に生音でどうにかするのが基本です。

何でもかんでもトリガーすればいいというわけではなく、音楽的であるかどうかを重視して選ぶべですね。



ということで、前半は基礎知識編でした。

実践編は後半へ続きます。

ドラムのトリガーについて・後半(実践編)