2016年7月17日日曜日

生ピアノとソフト音源のピアノを比較してみた

2000年代に入りコンピュータのリソースが向上した結果、ソフト音源の性能は飛躍的に進化しました。

楽器を問わず生音をサンプリングしたソフト音源はたくさんありますよね。

その中でも、今回はポップスの制作における主要パートの1つであるピアノにスポットを当てた記事を書いてみます。

尚、サンプリングとは使っているピアノのモデルや機材、マイキング、フレーズも微妙に違うので単純比較というわけではありません。

レンタルスタジオに置いてあるピアノで一般的な録り方をした場合、ソフト音源とどれぐらい違う結果が得られるのかを比較するという趣旨で書きます。



■今回比較する生ピアノとソフト音源のモデル

生ピアノは都内某スタジオにあるYAMAHA CL5で、マイクはAKG C451B×2、プリアンプはUAD-2版のNEVE 1073を通して録りました。

ソフト音源の方は過去記事で紹介したSynthogy Ivory II Grand PianosのYAMAHA C7 Grandで書き出しています。

オーディオ書き出し時の注意事項も書いてあるので併せて読んでみて下さい。

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ちなみに、C7のサンプルを選んだ理由は生ピアノと同じメーカーだからです。



■まずは聞いてみましょう

先入観を無くすためにどちらを使っているのかはあえて伏せておきます。

まずは聞いてみて下さい。



■Piano 1




■Piano 2





明らかに違いますね。

正解はわかりましたか?

「Piano 1」が生音、「Piano 2」がIvoryの音です。

生音は録ったままで、EQもコンプも使っていません。

マイキングはこんな感じです。






(左)1loveのボーカル吉田丞氏 (右)ピアニスト山田昌平



IvoryはLevel 16でボイス数を64に変更した以外は全てデフォルトのままで書き出しています。



■音を聞き比べた印象

生ピアノの方が中域が強く自然な低音が出ています。

低音はレベルバランスの問題もあるかと思いますが。

Ivoryの方はドンシャリ(低音と高音が強い)で、元々EQでしっかり音が作られている感じ。

ちょっと低音が出過ぎているかな。

アタックが非常に明瞭です。

空気感は言葉にするのが難しいですが、なんだか違いますね。

それと、僕の中では重要な要素なのですが、生ピアノの方が倍音が自然に感じます。

ピアノはレンジが広い上に弦が張ってある構造なので、共鳴した倍音成分の混ざり具合が個性として出るんです。

このあたりは生ピアノの方が扱いやすいかな。

ちなみに、生音をIvoryっぽいEQバランスにした音も作ってみました。






EQ的には近くても、音の質感やタッチのニュアンスが全然違うのがわかるかと思います。



■どう使い分けたらいいのか

それぞれに向き・不向きがありますが、楽器の本数が少ないアコースティック系の曲だと生音、バンドもののように他に様々な音が鳴っている曲だとIvoryが合うような気がします。

一番差が大きい部分はアタックの明瞭さだと思うのですが、そこを曲によって使い分けるイメージでしょうか。

優しいタッチの曲は生ピアノで、音ヌケがいい分、バンドものだとIvoryを使いたくなります。



■まとめ

いくらソフト音源が進化したとはいえ、やはり差がありますね。

優劣の話ではなく嗜好的な差という意味です。

最近の制作では予算的にどうしてもソフト音源で済ませてしまうことが多いかと思いますが、生音には生音にしかない良さがあります。

今回ご協力頂いた1loveの吉田さんはそこにこだわりがあり、ピアノと歌だけの部分はどうしても生音で勝負したいとおっしゃっていました。

僕は音楽人としてそういうスタンスがすごく好きです。

こだわりのある方はぜひ生ピアノでのミックスにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

ちなみにですが、実はこのピアノが入っている音源はまだ完成しておりません。

リリースされたらボーカル入りでどういったミックスにしたかレポートを書いてみようと思います。

2016年7月10日日曜日

アコースティック形式のミックス例⑤ リバーブのかけ方

リバーブの使い方を説明します。

関連記事も併せてお読みください。



【関連記事】
・アコースティック形式のミックス例① 録った状態とTDした状態の比較
・アコースティック形式のミックス例② アコースティックギターの音作り
・アコースティック形式のミックス例③ ピアノの音作り
・アコースティック形式のミックス例④ ボーカルの音作り&オートメーション
・アコースティック形式のミックス例⑤ リバーブのかけ方



■作業説明の前にリバーブに関する小ネタ

リバーブタイムの定義をご存じでしょうか。

音を止めた瞬間から-60dbを下回るまでの時間のことです。

本やネットを見ても意外と書かれていないんですよね…。

ちなみに、-60dbは小さすぎてほとんど聞き取れません。

設定値と耳が認識する時間にはかなりの差があり、設定値の半分ぐらいの時間が実際に聞こえる長さだと認識しておくといいです(聞こえ方には個人差がありますが)。

ぜひ自分のリバーブで確かめてみて下さい。



■リバーブをかけるコツ

リバーブは聞いていて気持ちがいいのでレベルを上げてしまいがちですが、かけすぎには注意です。

広がりすぎて音像がボヤけてしまいますよ。

そして、ヘッドホンなのかモニタースピーカーなのかで聞こえ方が違います。

人それぞれにこだわりがあると思いますが、個人的にはリバーブの質感はヘッドホンでミックスする場合が多いです。

なぜかというと、現代のリスナーはほとんどスピーカーではなくイヤホンやヘッドホンを使うからです。

エンドユーザーの環境に合わせてミックスするのが自分のスタンスですね。




さて、本題に入ります。

音作りを終えてPANを振った状態での音を聞いてみましょう。

■音作り後、リバーブをかけていない状態



どのパートも音が近すぎますね。

広げすぎると古くさくなってしまうので、全体的に薄くかけるイメージで音を作っていきます。

まずはアコギから。



■アコギのリバーブ





Apolloに付属しているUAD-2版のRealVerb Proです。



■ここでちょっと脱線

僕はリバーブに関してはプリセットを活用する方なのですが、そこに入っている「Acoustic Guitar」を選び、「Mix」のパラメーターを100%(完全にW側)に変更しました。

DはDry(エフェクトがかかっていない)、WはWet(エフェクトがかかっている)のことで、Wの方に振り切っておかないと、センドで送った信号が100%リバーブに入らないので注意です。

ディレイも同様に、入力信号に対してのインプットレベルのバランスを変更できるパラメーターがあります。

ところで、センドとは何ぞや。

リバーブやディレイをかける時、各トラック毎にプラグインをインサートしていたら多くのリソースを消費してしまうので、通常はプラグイン1つに対して各トラックから必要なレベルを送る方法を使います。

どのDAWにも必ずFX(Aux)チャンネル機能が付いているはずですが、リバーブの場合まずはステレオのFXチャンネルを立ち上げ、そのプラグインスロットにリバーブを立ち上げます。

Cubaseだとミキサー画面に各パートから信号を別に送る「SENDS」というスロットがあるので、それを↑で立ち上げたリバーブのチャンネルへ送信。

実際にどんな感じなのか見てみましょう。





画像の一番左がAG1、2番目の紫色のフェーダーがRealVerb用のFXチャンネル。

AG1チャンネルの真ん中あたりに「SENDS」というスロットがあるので、それをRealVerbに指定し、センドレベルを決めます。

すると、AG1の分岐信号がRealVerbのインプットに送られ、リバーブがかかります。

センドの信号分岐ポイントがフェーダーの前か後かを変更できますが、デフォルト設定ではPost(フェーダーの後)になっているのが通常で、各トラックのフェーダーを動かすとそれに連動してリバーブのセンド量も変化します。

Preに切り替えるとフェーダーを通る前(プラグインスロットの直後)にポイントが設定され、フェーダーのレベルに関係なくリバーブがかかります。

フェーダーを下げきった状態にすれば、原音は鳴っていないのにリバーブだけ鳴らすということも可能です。

Cubaseでの切り替えは、インスペクタの「Sends」をクリックし、Sendレベルのスライダーの中心部よりちょっと上の部分にカーソルを持っていくと切り替えのマークが出現します。





本題に戻ります。

プリセットを選んだら曲のテンポや雰囲気に合わせてパラメーターを変更しましょう。

特にリバーブタイムはテンポと上手く絡むように設定しないと違和感が出てくるので適当に設定してはいけません。

偶然にも、この曲ではプリセットのデフォルトでちょうどいい長さだったので変更していませんが。

薄く広がる感じにしてみました。


■ピアノのリバーブ





普段はあまり使わないSonnox Oxford Reverbですが、せっかくなので久々に使ってみることにしました。

これまたプリセットでホール系を選び、リバーブの質感を確かめます。

いい感じだったので、曲のテンポに合わせてリバーブタイムを変更。

しかし、なんだか物足りない…。

こういう時は別なリバーブも一緒に混ぜてしまいます。

色々試した結果、アコギ用に立ち上げたリバーブを併用するとイメージ通りになりました。

こういうこともあります。



■ボーカルのリバーブ





Cubaseに元々入っているREVerenceというプラグインで、クリック機能が付いているのが特徴。

画面左の再生ボタンのようなマークをクリックすると「パン」という音が鳴り、その音に設定したリバーブがかかるので、ボタンを連打しながらいい具合になるようパラメーターを変更します。

これがとても便利で、他のメーカーのリバーブも全部この機能を付けて欲しいぐらいですね。

ボーカルのリバーブはプレート系を使うのが定番ですが、僕はそれにホール系を混ぜて使うことが多いです。

プレートはその名の通り鉄板(EMT-140という有名なプレートリバーブが元になっている)のキンキンしたハイ上がりな響き、ホールはコンサートホールの木材が反射する中音域が豊かな暖かみのある響きです。

これらが混ざることで、上も下もまんべんなく聞こえるゴージャスな残響が得られます。

各々のプリセットを選び、クリックしながら同じ残響時間、音量レベルになるよう調整しましょう。

プレートとホールの比率は6:4ぐらいで混ぜており、シャリっとした明るめのサウンドに仕上げてみました。

そして、もう一つのポイントがプリディレイ。

リバーブ音が鳴り始める瞬間のタイミングを調整するパラメーターで、よくボーカル用のセッティングで使います。

0msecに設定しているとすぐにリバーブがかかり始めてしまい、原音の印象が薄くなってしまうことがあるので、大体25〜40msecぐらいに設定して原音をある程度聞かせてから広がるようにすることが多いですね。

こういった細かいテクニックを覚えておくと音作りの幅が広がりますよ。

余談ですが、REVerenceは全部これでやっても大丈夫だと思えるほど完成度が高いリバーブです。

こんな秀逸なプラグインが標準搭載されているなんて、Cubaseはすごいですね。



■TD(トラックダウン)

これで今回のミックス作業はほぼ終了。

あとはフェーダーのオートメーションでボリュームの微調整をしたらTDです。

それでは、どんな音になったのか聞いてみましょう。



■TD後の音





今回はこちらのミックスがマスターとして採用されました。

もっと欲しいという話になるかもしれないので、もう少しリバーブを足したミックスも聞いてみて下さい。



■TD後の音(リバーブ追加)





リバーブをかけるのはミックスの中でも難しい作業の1つで、エンジニアの個性が出る部分と言ってもいいでしょう。

こうやって比較してみると曲の印象が変わりますよね。

これだからミックスは面白いのです。



以上、ミックスのプロセスを公開してみました。

マスタリングは趣旨が違うので、そのうち別記事を作ります。



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・アコースティック形式のミックス例② アコースティックギターの音作り
・アコースティック形式のミックス例③ ピアノの音作り
・アコースティック形式のミックス例④ ボーカルの音作り&オートメーション
・アコースティック形式のミックス例⑤ リバーブのかけ方

アコースティック形式のミックス例④ ボーカルの音作り&オートメーション

歌もののメイントラックであるボーカルにこだわりがある人は多いと思いますが、音作りだけでなくオートメーションの書き方も交えて説明します。

関連記事も併せてお読み下さい。



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・アコースティック形式のミックス例⑤ リバーブのかけ方



まずは元音を聞いてみましょう。

■Recしたままの状態





レコーディングではマイクまでの距離はおよそ20センチで、一般的なマイキングですね。

コンプは浅めの-3db程度のリダクションで、EQは使っていません。

胸声タイプのボーカリストなので、録りの段階でローの成分を大事にしたいと思いました。

近接効果(マイクに近付くほどローが出る現象)が程よく影響しており、心地よい低音が録れています。

EQ的には全体のバランスが非常に良く、あまりいじらなくていいんじゃないのという印象。

やはりU87Aiはすごい。

ダイナミクス的には多少のバラつきがあるので、気になる部分の波形を切り、クリップゲインをオートメーション代わりにしてバランスを整え、その上でコンプをかけた方が良さそうです。



■ディエッサーの設定





EQの前に、歯擦音が少し気になるのでディエッサーを使って抑えてあげます。

歯擦音とは、「さしすせそ」の発音時に空気が歯に当たることで発生する耳に痛い高音成分のことで、コンプを深くかけるほど際だってしまいます。

ブラックミュージックなどでわざと強調する音作りもありますが、個人的な嗜好で歯擦音は苦手なのでカットする場合が多いですね。

Cubase付属のディエッサーで、設定はデフォルトのまま使用。

4.5kHz〜15kHzが3〜4dbほどリダクションされるようにします。

カットし過ぎると不自然なので、少しピリっとした成分が残るように設定。

そのままEQの設定にいきます。



■EQの設定





アンサンブルになると少し埋もれてしまうのでハイを突いてあげます。

このEQはApolloで使えるUAD-2プラグインのオプションで、NEVE 1073を買うと使えるようになりますよ。

数あるEQの中からなぜこれを選んだかというと、ブースト時の音質変化が非常にクリアで滑らかだからです。

NEVEは全く歪まないので、今回のようにクリアなミックスをしたい時には重宝していますね。

逆にロックなどの勢い重視な音楽の場合はSSL EQのようにピリっと歪むタイプを使い、しっかりと目立たせるという使い分けをしています。

横道にそれましたが、左から3番目のツマミで周波数を7.2kHzに、4dbほどブースとしたらより明瞭になりました。

では、ディエッサー → EQを通した音を聞いてみましょう。



■ディエッサー&EQ処理後の音





すっきりと聞きやすい音になったと思います。



■コンプの設定





コンプといえばこれ、1176の実機を同社がプラグイン化したものです。

定番中の定番ですね。

ブラックの他にもシルバーがありますが、大きな違いとしては前者がトランス回路あり、後者はなしという具合です。

ブラックはトランスを通ることでハイがいい具合に落ち着き、その結果音が太く聞こえる音質変化が特徴的。

スレッショルドは固定されているので、まずはインプットを右に回してレベルを上げてリダクションのかかり具合を調整し、アウトプットでバイパス時と同じ聴感レベルに出力を揃えます。

アタックとリリースもちょっと変わっていて、左に回すほど数値が大きくなる設計です。

使ったことのない人には不思議な回路設計かもしれませんが、これが定番なので個人的には今さら使いにくいとは思いません。

平均で-5〜-7db、ピークで-10dbほどのリダクションがかかるように設定しました。



■クリップゲインによるオートメーション

前項で平均-5〜-7dbのリダクションと書きましたが、常にこれぐらいかかるようにクリップゲインでコンプへのインプットレベルを調整しています。

フェーダーで書くオートメーションとどう違うかというと、信号の流れがクリップゲイン→プラグインスロット→フェーダーの順なので、クリップゲインで調整しないとコンプのインプットに影響しません。

僕の場合はサビ基準でAメロ・Bメロなど小さい部分を同じぐらいの波形の大きさに調整し、大きすぎる部分を下げるというやり方が一番しっくりきます。

例えば、こんな具合に波形を確認しながら少し小さい部分を切って前後と同じぐらいに揃えてあげます。





見た目だけでなく、実際に耳で聞いて判断する必要があるので注意です。

常に-5〜-7dbのリダクションをかけている理由としては、コンプがかかることで起きる音質変化のバラつきをなるべく減らせるからなんですね。

そして、こうすることでフェーダーによる更に細かいボリュームのオートメーションはあまり必要でなくなります。

ちょっと面倒だとは思いますが、いいミックスに仕上げるためには必要な作業なので、何度も練習して作業速度のアップを目指して下さい。



それでは、クリップゲインとコンプで処理した音を聞いてみましょう。

■クリップゲイン&コンプ処理後の音






こういうった感じになります。

曲によってはコンプかけてますアピールをするような音作りもしますが、今回は静かな曲なので自然に聞こえる感じにしています。



以上、ボーカルの音作り&オートメーションでした。



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アコースティック形式のミックス例③ ピアノの音作り

ピアノの音作りです。

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今回は生ピアノではなくMIDI録音で、ソフト音源はSynthogy Ivory II Grand Pianosを使用。

この曲はピアニストのタッチが繊細ですが、そういったニュアンスまでしっかり再現してくれる優秀なソフトなので重宝しています。



■音作りの前に小ネタ

MIDIでソフト音源を鳴らす場合、音源のアウトプットにプラグインをかけるのではなく、一度オーディオ化して処理するようにしています。

オーディオ化した状態でないとできない編集が可能になること、ソフト音源を立ち上げなくていい分のリソースが浮くことが主な理由です。



■書き出す際は必ずオフラインバウンスで

オフラインバウンスはCPUのリソースに依存する書き出し方法で、通常は数倍速でレンダリングされます。

しかし、Ivoryのような動作が重い音源をバウンスする時は、たまにアラートで表示される倍速が1.0以下になる場合があります。

これはリアルタイムバウンス(つまり等倍速)では処理できないことを行っているということで、実際に音を聞いてみるとブツブツと途切れている箇所が出てきます。

オフラインバウンスはプロジェクト上の情報を正確にレンダリングする機能でもあるので、必ずオンにしてください。

TDもマスタリングも同様です。

Cubaseの場合は書き出し設定の画面で「実時間で書き出す」のチェックを外せばオフラインバウンス処理になります。



バージョンによっては「インプレイスレンダリング」という書き出し機能があるので、そちらを使うのもいいでしょう。

音質への影響を懸念する意見もありますが、プラグイン形式が64bitの場合はほぼ変化しないと思っていいはずです。

Pro Toolsも11でプラグイン形式がAAXになった(つまり64bit化された)ことで、オフラインバウンスによる音質劣化はないので機能搭載したと開発者インタビューに書いてありました。

このあたりは自分で詳しく検証したことがないので、また機会を改めて記事にしてみますね。



では、本題の音作りへ。

まずは元音を聞いてみましょう。



■オーディオ化したままの状態





音の印象としては、ローがやや強くハイのヌケが良くない、ローミッドがモコッとしているといった感じですね。

フレージングやタッチによる影響が考えられます。

ダイナミクスに関してはいい具合にニュアンスが落ち着いているので、ほんの少しコンプをかけて整える程度に止めておいた方が良さそうです。



■EQの設定





ローとローミッドを若干カットし、2kHz以上は派手に上げています。

音のヌケが良くなり、フレーズの一つ一つが際立って聞こえてきました。

こんな感じです。



■EQ処理後の音





■コンプの設定




WAVESのRVoxというコンプなのですが、スレッショルドとアウトプットのゲインだけという非常にシンプルなインターフェイスになっています。

同社の有名なマキシマイザーでLシリーズがありますが、アルゴリズム的にはL2のソフトニーバージョンみたいですね。

R-Comp同様変なクセがないので、ピアノのようにコンプをかけるのが難しいソースにはこれを使うことがあります。

今回のピアノにはリダクションが-1〜-2db程度かかるように設定し、やや強めのアタックを揃える感じにしてみました。

聞いてみましょう。



■コンプ処理後の音




以上、ピアノの音作りでした。



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アコースティック形式のミックス例② アコースティックギターの音作り

アコギのミックスを解説していきます。

他の記事も併せて読んでみて下さい。



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解説の前に、まずEQとコンプはどちらが先なのかという問題が。

人によって考え方は様々ですが、僕は基本的にEQ→コンプの順番にかけます。

今回のアコギは特に良い例なのですが、元素材のままだと低音が強く出過ぎており、すぐコンプのスレッショルドに引っ掛かってしまうので、なるべくEQで均一化した後の自然なバランスの状態にしてからかけるようにしています。

それを頭の片隅に置きつつ先を読んでみて下さい。



まずは元素材の音を聞いてみましょう。

■AG1(左側)をRecしたままの状態




EQ的な観点では、ローが出過ぎてボワーっとしておりハイのきらびやかさが少し足りない感じがします。

レベル的観点では、ダイナミックレンジ(一番小さい音と一番大きい音のレベル差)が大きく、盛り上がりの部分はちょっとレベルが大き過ぎますね。

そこで、まずEQを使って各帯域のバランスを整えてみます。



■EQの設定





設定はこんな感じで、ローとハイのヌケが良くなり、バランスが整いました。

アウトプットが1.5db上がっていますが、ローを下げた分全体のレベルが下がってしまったのでそれを補ってあげます。

なぜこうしているかというと、エフェクトがバイパスになっている状態と比較するためです。

人間の耳の性質上、聴感上の音量レベルが違うと比較しにくいので、どんなエフェクトでもオンとオフの時で聴感レベルが揃うように調整するのが基本です。

このテクニックはけっこう重要なので、知らなかった人は今日から実践してみてください。

実際にはこういう音になります。



■EQ処理後の音





きらびやかさを出すには一番右(6)のポイントが重要で、高次倍音の帯域をブーストします。

だいたい13kHz以上なのですが、ソロで聞くとそんなに変化がわかりません。

しかし、アンサンブルで他の音と混ざると違いがよくわかります(これまた人間の耳の性質によるもの)。

アコギのヌケが悪い場合は8kHz〜10kHzあたりをブーストすることが多いかと思いますが、この帯域はやりすぎると耳に痛い音になってしまいます。

音ヌケが悪い場合はまず13kHz以上をブーストし、それでも足りないようであればわかりやすい帯域をブーストするといいでしょう。

他のソースも同様です。



続いてはレベルを揃えるコンプレッサーの設定です。

■コンプの設定





ポイントとしては、アタックとリリースは遅め、レシオはかなり低めにすることです。

アタック&リリースタイムに関しては、弦を弾いて余韻の始まる部分からかかるようにし、ポンピングを回避するのが狙い。

レシオ値が高いとリダクションが始まった瞬間に「ガクッ」と不自然に聞こえる場合があります。

今回のアルペジオがそうでした。

リダクションは-1〜-2db平均で、レベルが大きい部分は-6dbぐらいまでリダクションされるように設定。

このあたりの質感は楽曲イメージによってかなり違ってくるので、毎回同じように処理するわけではありません。

その都度、気持ちのいいセッティングを探しましょう。

実際にコンプをかけたらこんな音になります。

■コンプ処理後の音





AG1と同様にAG2も処理していきます。

■AG2(右側)をRecしたままの状態





こちらはガットギターです。

ナイロン弦なので音がまろやかですね。

録ったままだとAG1とほぼ同じ印象だったので、同様に処理しました。

プラグインの設定と音を聞いてみてください。



■EQの設定





AG1と比べてやや派手な設定になっています。

音はこんな感じになりました。



■EQ処理後の音




■コンプの設定





■コンプ処理後の音





5、6弦を強く弾いた時にリダクションがかかり、ある程度ニュアンスを保ったままレベルが均一化されていると思います。



以上、アコギの音作りでした。



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アコースティック形式のミックス例① 録った状態とTDした状態の比較

シンプルなアコースティック形式のミックスはどうやっているのか。

素材&プロセス別にファイルを書き出し、どういった処理がなされているのかを比較できるようにしてみました。




今回協力してくれたのは、芥というバンドのボーカリストである大田誠師氏です。



■大田誠師 SNS




スタジオのテストレコーディングとして、アコースティック形式で演奏してもらいました。

以下、レコーディングで使用した機材やソフトです。



■DAW
Cubase Pro 8(Mac版)

■Audio I/O
UNIVERSAL AUDIO Apollo Twin Duo

■Mic
NEUMANN U87Ai

■Mic Preamp
UNIVERSAL AUDIO UAD-2 NEVE 1073

■Piano Software
Synthogy Ivory II Grand Pianos



まずは録音しただけの状態の音を聴いてみて下さい。




そして、TD(トラックダウン)した状態です。






全然違いますよね。

この間にどういったことをやっているのか、プラグインの設定を公開しながら解説していきます。



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2016年7月9日土曜日

Cubase Pro 8でApollo Twin Duoを使ってみる

前のApolloを紹介した記事に引き続き、僕がメインアプリとして使っているCubaseとはどう組み合わせているのか書いてみます。



■一般的な録音時の信号の流れ

ApolloはオーディオI/Oであり、専用のDSPミキサー(Digital Signal Processorの略称)アプリで様々な信号のやり取りを管理できます。

プロセスを一つ一つ辿り、各種設定例を挙げてみます。




★DSPミキサー側


まずはApolloのアナログインプット(写真右のMIC/LINE1と2)からAD変換。

接続機材によってはOPTICAL INも使用可能ですが、今回は説明を省略します。






ギターやベースをラインで録る場合は、フロントパネルの左側に付いているギターマークのインプットに直接シールドを挿しましょう。

DIの機能が備わっており、インプットの1番に信号が割り当てられます。






その後、DSPミキサーのデジタルプリアンプ(Neve 1073)を経てプラグインスロット(UA 1176LN Legacy)へ。

必ずしもプラグインを立ち上げる必要はありません。

アンプシミューレーターもプラグインスロットにインサートします。









プリアンプに対してはできませんが、プラグインスロットの部分は録音される音に反映させるか否かを、各チャンネル毎に設定できます。


ミキサー画面左上にある表示を「INSERTS」にし、パンの上にある「INS」という部分をクリックすると「REC(録音に反映される)」か「MON(モニター音にのみ反映される)」が選べるので、任意の設定に。






ちなみにですが、DSPミキサーの「PAN(音の左右)」、「SOLO」、「MUTE」、フェーダーはモニター音にのみ反映され、録音される音には影響しません。



★Cubase側

ここから先の信号はCubaseへ渡ります。

Cubaseの上部メニューにある「デバイス」→「デバイス設定...」を選ぶと以下の画面が出るので、左側の「Universal Audio Apollo」を選び、中央上部にある「コントロールパネル」内の「Buffer Size」を最大の2048に設定。







【Buffer Sizeとは】

横道にそれますが、このBuffer Sizeをざっくり説明すると、録音する側と再生する側の処理能力バランスを調整する値です。

・数値が小さい…録音する側に能力が割り振られ、インプットのレイテンシー(信号の遅れ)が少なくなる分、再生するトラックの処理能力が下がる。

・数値が大きい…再生する側に能力が割り振られ、録音されたトラックにより多くの処理が可能になる分、入力音の処理が遅れてレイテンシーが大きくなる。


個人的な設定例ですが、DSPミキサーを使わない場合は録音時で128、録音が全て終わって編集やミックスをする場合は最大値の2048にしています。

オーディオI/Oの機種によってはダイレクトモニター機能(プリアンプの直後の音をAD変換せずにそのまま出力)が付いているものもあるので、そちらを使うのもいいでしょう。

そして、ここがDSPミキサーの一番すごいところ。

オーディオの録音時でも2048に設定してしまって大丈夫です(但し、数値を上げすぎるとボリュームのオートメーションが正しく再現されないという話もあるので、再生できるギリギリ低い値に設定する人もいるそうです)。

録音時はアナログインプットを通ってDSPミキサーで処理される音(Cubaseに入る前の音)を聞くことになります。

Apollo本体に埋め込まれているオーディオ専用のチップが超高速な処理をしてくれるおかげで、DSPミキサー側で使うプリアンプや他のプラグインなどを通ってもほぼレイテンシーは発生しません。

Buffer Sizeを上げることにより発生するレイテンシーは自動で辻褄を合わせて録音してくれるので、しっかりミックスした状態でもCubase側のプラグインを外さずに録音ができるというわけです。

また、UADプラグインの場合はPC側のリソースは一切使わず、完全にApollo側のリソースを使って信号の処理をしているので、そこそこ負荷をかけても平気でしょう。

但し、Cubase内のソフト音源を鳴らしてMIDIを録る場合は128以下にしておかないとレイテンシーが生じるので注意です。

Cubase側の処理が必要になってくるので、こればかりは仕方ありません。



本題に戻り、Buffer Sizeを設定した後の説明に入ります。

上にあるメニューの「デバイス」→「VST コネクション」で以下の画面を表示させ、「オーディオデバイス」欄が「Universal Audio Apollo」になっているのを確認し、「デバイスポート」欄(黄色い枠の部分)を「Analog1(もしくは2)」に設定。







ミキサー画面にCubaseへのインプット(画像左2つの赤いフェーダー)が表示されます。






更に画面上のメニューから「プロジェクト」→「トラックを追加」→「Audio(MonoかStereoは任意)」で録音トラック(白いフェーダー)を作り、ミキサー画面上部の「Routing」欄でそれぞれのトラックに任意のインプット(Analog1か2)を割り当てます。

この時に注意。

録音トラック(画像の白フェーダー)を録音待機状態(赤点灯)にしておくのは当然ですが、その左にあるオレンジに点灯した「モニタリング」のボタンは必ずオフ(グレーの状態)にします。





モニタリングがオンになっていると、DSPミキサーで処理した音とCubaseで処理されて遅れて出る音が同時に鳴ってしまいます。

この場合の追加説明で、画面上メニューの「Cubase Pro」→「環境設定」→「VST」までクリックし、下から2番目の「自動モニタリング」欄を「手動」に設定。






例えば「テープマシンスタイル」にしてしまうと、録音されているトラックのモニタリングが自動でオンになってしまい、先ほど書いた現象が起きてしまいます。

「手動」にしておくことで録音・再生時に関係なく常に同じ設定になるので、こうしておいた方がいいでしょう。


★Cubase→DSPミキサーへの返し

デフォルト設定では、CubaseからDSPミキサーへの返しはモニターかヘッドホンのマスターアウトプットでしかレベル調整ができません。

オーバーダビングの時は特に、プレイヤーは自分の演奏している音をメインで聞きたいでしょう。

その時にCubaseのマスターフェーダーでオケのレベルを下げるとなると面倒な場合がありますよね。

そういった煩わしさを回避するのに便利な設定で、Cubaseからの2mixをDSPミキサーのフェーダーに割り当てることが可能です。

やり方は簡単で、Cubaseの画面上メニューから「デバイス」→「VST コネクション」を選択したら、次の画面で「出力」タブを選び、マスターアウトのLeft、Rightをデバイスポート(水色の欄)で「VIRTUAL1、2」に設定します。







こうすることで、DSPミキサーの「VIRTUAL1、2」に音が返ってきます。

DSPミキサー側のフェーダーは0db以上に設定できないので、プレイヤーがもっと自分の音が欲しいと要求してきた場合はCubaseの2mixを下げつつモニター(もしくはヘッドホン)のマスターレベルを上げてあげるとちょうどいいでしょう。

その際、2つのフェーダーはステレオリンクしておけば1つのフェーダーでコントロールできるので便利です。

フェーダーの名前の部分をクリックすると下の画像のように表示されるので、「STEREO」の「LINK」をクリックして点灯させます。







さて、いかがでしたでしょうか。

そのうち各プラグインの実践的な使い方の例を書いてみたいと思います。

2016年7月8日金曜日

最新のモデリング技術はすごい『Apollo Twin Duo』

先日、UNIVERSAL AUDIO Apollo Twin Duoを購入しました。







詳細なスペック等は公式サイトにてご確認ください。

UA社といえば、高級なレコーディング用の機材を作っているメーカーとして有名ですね。

オーディオI/Oやコンプレッサー、プリアンプなど、数多くの良質な製品を出しております。

そのUA社がここ数年、名機と呼ばれる有名なハードをプラグイン化する事業に力を注いでいるようです。

公式サイトにも載っておりますが、コンプレッサーの名機である1176であったり、プリアンプの610-Bなどの自社製品はもちろんのこと、NEVEやManleyなどの他社製品でもライセンスを取得して開発しています。

個人的にNEVEが好きなので1073を買ってみました。







残念ながら実機がかなりお高いため比較がなかなかできませんが、とある動画で比較しているのを聴いたところ、むしろプラグイン版の方が音のヌケが良い印象でした。

もちろん、NEVE特有のハイがまろやかでクリアな太い質感はそのままです。

都内の某スタジオでApollo Twin Duoの上位機種であるApollo 8P(プリアンプが8つ同時使用が可能)を無料で貸し出していたので、1073のプリアンプでドラムとベースを録ってみました。

その時のサンプルがあるので聴いてみてください。




こんな感じの音になります。

また別の機会に、Apolloの使い方やこの曲のミックスに関する解説を書いてみようと思います。

スタジオを構えることになりました!

久々の更新です。

間借りさせて頂く身ではありますが、活動拠点となるスタジオを構えることになりました。

ミックスルームはこんな感じです。







オーディオI/OはMOTU 896HDとTraveler、マイクプリはUNIVERSAL AUDIO 710 Twin-Finityが常設機材として備え付けてあります。

UNIVERSAL AUDIO ( ユニバーサルオーディオ )  / 710 Twin-Finity

また別記事で書きますが、UNIVERSAL AUDIO Apollo Twin Duoも私物で使っております。






こちらはブース。






ちょっとわかりにくいですが、世界中のスタジオで愛されている定番のNEUMANN U87Aiが入っております。





他にもNEUMANN KM184、SENNHEISER MD421、私物でMXL V67G HEも使用できます。

規模的にドラムやベースアンプ等は録れませんが、ボーカル、弦楽器、パーカッション系、ホーン系、ナレーションなどでは十分使えますよ。

キャンペーンもやりますのでぜひご利用下さい。